さっきの続き





数日後の帰宅時、また女の子に見つかった。
今度は人数が多い。7人くらいか?
中には誰かの弟なのか、少し年少者の男の子も1人いる。
なぜ私ばかり追われるのか?
わからない。全く見当もつかない。
しいて言えば夕立が来そうな夕方、
自転車で追い抜いたことがある、あの些細な出来事だけだ。
しかしなんで私は逃げているのだろう?

走って逃げている途中、反射ガラスが張り巡らされた
間口の狭い10階建てほどのビルがあった。
こんなビル、あったっけ?
そう思ったが、追手が迫っていたので焦っていた。
ビルの入り口、ガラスのドアを開けて逃げ込む。
それにしても左右に部屋のドアなどない、
廊下だけのビルのようだ。変なビル!!
廊下は結構急な下り坂になっている。
入ってきたガラスのドアを開けようとするとびくともしない。
おぉ!鍵がかかったのか。
よかった。これで子どもたちは入ってこれないだろう。

やたら眩しい光が溢れている廊下の突き当たり100mくらい奥に
木の扉がある。場にマッチしない古めかしい扉だ。
走って木の扉まで行って振り返ってみると、
子どもたちがガラスのドアを開けてどやどや入ってきた。
なんてこと!?あちらからは開けて入れるけど、
こちらからは開けられないのか?
私は木の扉を開けてまた逃げ込む。

するとそこはなんと江戸時代の町並み、
丁髷結った男の人や着物に日本髪の女の人が往来を行き来している。
御触書のような立札もある。
呉服屋があり、道沿いにはくねくねまがった松の木が生えている。
時代劇で見るような景色・・・ってそれほど時代劇を見る機会もないが。
おばあちゃんちに行ったときテレビでかかっていた水戸黄門のあの景色だ。
私が出てきた木の扉は、こっち側から見るとなにもない。
透明だ。しかしそこだけなんとなく景色が歪んでいる。
やっぱりあそこの向こう側には木の扉があるんだろう。
だったらぼやぼやしているとあっちから子どもたちが入ってくる。

待てよ?!
さっき確認した通り、扉は一方通行なので、
私が出口を見つけて、出た後に鍵を閉めれば、
あの子たちはこの時代に取り残され、
私は追い回されることもなくなる!
そう答えが出た。

私は出口を探した。
しかしどこにある?どんな形をしている?
入り口みたいに景色が歪んでいるのか?
全く見当もつかない。

江戸時代の着物の人たちは、
私の姿が見えないようだ。
全く気にも留めずに歩いている。
こっちを見てるのかな?と思っても、
視線は素通りして向こうの人に手を振ったりしているので、
今私は透明人間なんだな、と思った。
出口を見つけなければならない私には好都合だ。

やみくもに歩き出した。
もう子どもたちもとっくにあの歪んだ景色の穴から、
こっちに出てきているんだろう。
早く出口を見つけなければ・・・

姿が見えないはずの私のそばに、
乞食のような恰好をした老人が近づいてきた。
盲目のようだ。それなのに私に近づいてくる、
そして老人が持っているにはそぐわないような、
美しい布でできた頭陀袋をこちらに寄越した。
「これをあげよう。」
貰う理由もなかったがあまりに美しい布の頭陀袋だし、
断る理由もなかったので、素直に、
「こんなに美しいものを・・・ありがとうございます。
本当に感謝します。」
と言った。老人は自分が来た方向を指さして、
そして、また反対方向に向かい歩いて行ってしまった。

私は老人が指差した方に向かってみた。
すると川の近くに来た。
滔々と流れる川のほとり、
河原には木の柵が張り巡らされた場所があった。
誰もいない。
なんとなく不気味な場所だ。
立札があった。

うねうねした墨の字を読むとそこが処刑場だとわかった。
ブルンと身震いした。
中に入れる扉のような箇所があった。
下の方にちょろちょろ動くのが見える。
白い鼠だ・・・
その鼠のしっぽは細い木の棒になっていた。
なんで?
よくみるとその棒が閂になっていて、
柵の開閉を鼠のしっぽでなされていた。
私は鼠が窮屈そうに入っている木製の鍵ボックスに手を入れて、
しっぽを鎹から抜いてみた。
すると柵の扉が細く開いた。
そこから中に入ってみると、
自分の体が入り口付近の窪みの中に
どんどん吸い込まれるような感覚が湧いてきた。

と同時に目の前に子ども集団の中のひとり、
弟タイプが出現した。
どうやら私の一部始終を見ていたようで、
鼠ボックスに突進している。
私は吸い込まれそうな足を引っ張りだし、
鼠ボックスの鼠の閂を掛けようと反対側から手を伸ばした。
弟タイプは小さいながらに知恵が働き、
鼠ボックスのふたを開け放して、
閂を掛けられないよう鼠を逃がそうとしていた。
鼠が向こう側の空気をクンクンとして、
ボックスから出ようとしている所を、
私はこちらから閂状のしっぽを引っ張り、
鎹に突っ込んだ。
すると扉は固く閉ざされてしまい、
弟タイプは口をあんぐり開けて、
私が窪みの中にどんどん吸い込まれていくのを眺めている、
弟タイプは悔しそうに箱の中の鼠を握りしめ、
鼠は目が真っ赤になり体が溶け出していったのが見えた。
尻尾だけは溶けずに乾いた土の上に転がった。
私は恐ろしい気持ちになった。



気付くとアパートの部屋にいた。
キッチンの床に倒れて眠っていたらしい。
服には土が着いている。
窪みに吸い込まれたのは本当だったのか・・・?
なんだか夢か幻か・・・という感じだ。
あの子どもたちは江戸時代に残されたままなのか?
そう思って俄かに起き出し、
解放感に満たされた。
もう追い回されることはないのか!?

今何時だろう、
朝日が昇る頃だった。
なんと清々しい朝なんだ。
心が晴れ晴れとしていた。
おっとっと、仕事に行かねば・・・
シャワーを浴びて急いで出勤の支度をして出かけた。

何も起こらずに数日が過ぎた。
江戸時代から戻ってきて、かれこれ2週間、
帰宅していつものコンビニで買ったスイーツを食べる時間になった。
今日のデザートはマンゴープリン。
オレンジと黄色の中間の色が鮮やかで、
つるつるっと口に流し込むと、
ひんやり冷たく、南国の香りがした。至福の時。

ふと部屋の片隅の美しい布に目が留まる。
あぁ、そういえばあれ、乞食みたいな老人がくれたんだっけ。
紫と橙と黒と黄色と緑と赤と桜色と・・・何とも言えない色合い、
この世のものとは思えない美しい色だ。
マンゴープリンを食べ終わってその頭陀袋を覗きこんだ。
すると・・・










to be continue・・・ (*´・ω・)