蛙について①

ここにひとつの短く簡素な童話がある。
 
 
蛙さんさようなら編
 
あるところに蛙が住んでいました。
蛙には夢があって、
何年もこつこつと励んでいました。
するとある日、
綺麗な身なりをした一匹の狼がやってきました。
 
蛙サン、なにをやってるの?
僕は君に会いたくてここまで来たのさ。
 
蛙は吃驚しました。
この世に、この自分に会いに来る狼などがいるとは。
綺麗な狼はとても上品で、
話も楽しく、蛙は毎日の行いも忘れ、
狼と過ごす時間を楽しみました。
 
そして蛙は狼が大好きになりました。
しかしこの狼は、どことなく刹那で、
蛙は、狼が去っていってしまうのが怖く思い始め、
蛙の得意な絵を描いて上げたり、
料理を作って食べてもらったりして、
狼がいつまでもそばにいるようにと願いました。
狼は、蛙の絵や、歌、料理をとても喜び、
楽しんでいるようでした。
そして、
 
いつの日か、お礼に、森の向うの、
素敵な池に連れて行ってあげる。
 
と約束しました。
ある日、狼と蛙が楽しく過ごしている時に、
蛙の住む池の中から、
仲間の蛙が呼ぶ声を聞きました。
狼は、その日以来、蛙の元を訪れなくなりました。
蛙は、池の石の上から力の限り、
狼に聴こえるように、
 
何故、ここに来なくなったのか、
 
と、尋ねると、狼は、隣の森の彼方から、
 
蛙さん、これ以上は
いっしょに歌を歌ったり、絵を描いたり、
できない。
僕はお池には住めないんだよ。
 
と言いました。
 
今まで僕と費やした時間を埋めて、
蛙さんのやらなければならないことと、
池の仲間と仲良く暮らした方がいい。
 
と、遠吠えしました。
蛙は、約束は守られなかったこと、
それでも、淋しい狼の遠吠えを聞いて、
蛙も淋しくなるのでした。
そうして、また以前と同じように、
毎日こつこつを再開するのでした。
でも、いつも狼の事を思い、
また訪ねてくれる日を夢見るのでした。
いつしか蛙はこつこつ励むコトよりも、
狼そのものが蛙のかけがえない夢となりました。
 
 
この童話のシリーズはいくつかある。
悲しみのうちに終わるものと、
ハッピーエンドのものと、いろいろだ。
 
この童話の蛙と狼に、
それぞれが各々思い浮かぶ名前を入れ替えて読んでみると、
あてはまることも少なくないだろう。
 
童話は万人に、
普遍的無意識界より意識にのぼる象徴なのだ。