縁ってなんだ?

前職場では契約社員に近い派遣社員として勤務していた。
入社時に、契約は1年更新で半永久的に更新されると言われて、
就業することに決めたのだ。
 
ところが2008年の秋以来、不穏な空気が流れていた。
すでに契約更新が3ヶ月更新に変更されていた。
1年更新は1度きりだった。
 
派遣の営業曰く、
 
『いえ、3ヶ月更新にする意味は特にないんです。
だったら従来のままでいいじゃないですかねぇ。
でも会社がそうするっていうから。
すみません。契約書を3ヶ月毎にかわすようになって
なにかと煩雑ですが、今まで通りずっと居てくださいね。(笑)』
 
などと、おそらく語尾にかっこ笑いが付いているかのような表情で言っていた。
 
 
 
 
2009年の1月から、有給や公休を利用して、
就活を始めた。
この歳になってそんなことをバタバタしている方がいけないんだが・・・
人生にはいろんなことが起きる。
いろいろなグッドやバッドなタイミングもある。
言い訳じみるので、言わないことにする。
この事態も自分のダメさ加減に起因することが大半だろう。
 
廻りの人も不安を口にはしていたが、
就活はしていないようだった。
私自身は年齢のこともあり、ちょっとした焦りを感じていた。
 
同僚の一人だった今年40になる人が、
 
『確かに焦る気持ちもわかるけど、
一生懸命やっていればいいことあるよ。
仕事って、縁だから。』
 
と言った。
 
 
 
 
縁だから。
 
 
 
 
って、なぁに?
 
 
 
 
私には意味がわからない。
縁だから、・・・
縁があって就職が決まる。ってことか?
縁があれば、契約は半永久的に更新されるとでも??
 
彼女が縁の意味を熟知して言っているとも思えなかった。
なぜなら、彼女は、
 
『キムタクってさぁ、どんなドラマ出てもキムタクにしか見えないからねぇ。』
 
ってしたり顔で言う人だから。
 
 
 
使い古しなんだよ。
 
 
 
どこででも見かけ、耳にするご意見・・・。
しかし、その人が言う、縁だからねぇ。は、漢字練習帳の点線を
2Bの鉛筆でたどたどしくなぞったって感じだ。
ほんとに縁をわかっている人が言う縁ならば、多少なりとも理解できたかもしれないが。
 
 
 
 
先日、ハロワで紹介状をもらって面接に行った。
会社の詳しい情報は控えるが、運送会社の事務の、遅番の募集だった。
遅番はどちらかというと苦手だったが、求人票の中身の確認をしたくて面接を希望した。
自分にもやっていけそうならいいが・・・
 
面接して頂いたKさんという方は、どんな肩書が付いているのかわからなかった。
名前こそ名乗れど、それを私には全く伝えてこなかったからだ。
 
開口一番、
 
『当社に応募した理由は何ですか?なんてつまんないこと聞いたって、
そんな明確な理由なんてないんだろうから聞かないけどさあぁ、
でも敢えて言うとしたら、応募した決め手って何?』
 
って聞いてきた。
 
この人、わかってるなぁ。。。と感心した。
 
業務内容や条件の内容を、明確かつ曖昧に分かりやすく説明してくれた。
この面接の流れは、私には好ましいものだった。
Kさんの話は分かりやすく、こちらの考えや人格を引き出すのもうまかった。
ただ引き出すだけではなく、受け入れる器も大きかった。
いままで100回にも及ぶんじゃないかっていう面接の中では、
固執した考え方の持ち主や、通り一遍の面接しかできない?しない人が
殆どだったのでついつい比べてしまっていた。
 
 
 
すごい人だ・・・
業務でも能力の高い人なんだろうな。
こんな人と一緒に働けたら楽しいだろうなぁ。
この人を母に持つ子どもがいるとしたら、その子らは幸せだろうなぁ。
と思った。
 
 
とはいえ、求人票に書かれていたことと、実情には差があることがままある。
そういった部分に関しても、曖昧に分かりやすく説明してくれた。
会社ってそういうところ、あるよな。
面接である程度確認でき、総合的にそこに就職することは自分には無理だと、
早い段階で認識していたが、私はその時間を楽しんでいた。
そんな面接は、あっという間だったが1時間半にも及んだ。
 
Kさんは、例のフレーズを使った。
 
『・・・云々・・・省略・・・縁だからね。』
 
 
 
でた!!縁だからね!!!
 
 
 
縁だからね。ってなんだろう。
 
 
 
そこの仕事ができないとわかった私は、
Kさんとは、人生で2度と会うことはないだろう。
しかし、それはとても残念なことだ。
他の場所でKさんに出会いたかったなぁと幽かに思った。
 
それこそは、縁がなかった。ってことになるのか???
 
わからない。
 
袖すり合うも多生の縁、っていうだろ。
あれはどうなんだ?
 
 
 
なんで、就職先を選ぶ、雇用者を選定する時に、
縁、という言葉を使うんですか?
 
 
 
さっき、Kさんから電話が来た。
とっさには出られなかった。
自分にはそこで働く意思がない、っていうことを、
Kさんからかけてくれた電話で伝えるのがいやだった。
 
15分して、自分からKさんに電話をした、
Kさんは、こちらでは、採用を考えている、と言ってくれた。
けれど私は、面接から帰って来て熟考した結果、総合的に無理という結果に至った。
ということを淡々と伝えた。
 
 
あ・・・、そうなの?・・・わかりました。
そういうことでしたら、そのようにハロワに結果を流しておきますね。
と言った。
 
こころなしか、Kさんの声色は、落胆色が出ていたように感じられた。
 
 
 
私は、とても悲しかった。
Kさんにお礼を言った。
 
『私のためにお時間をたくさん割いて頂き、本当にありがとうございました。』
 
 
電話を切ったら、涙が出た。
とても悲しかった。